電子カルテのクラーク活用

電子カルテのクラークの活用

                                 [目次]
はじめに
医師事務作業補助体制加算の届出状況
医療クラーク活用のポイント
クラークの育成

はじめに

現在、わが国では超高齢社会に伴い、労働人口の減少が進んでおり、政府は「働き方改革」を急ピッチで進めています。政府は、残業時間の減少や有給休暇の消化の義務化、確実なインターバル(休憩)の確保など環境整備を中心に進めています。

その流れに対応するためには、医療機関も生産性の向上に取り組む必要があります。そこで、生産性向上のひとつの施策として、「電子カルテのクラーク活用」に注目が集まっています。

従来、電子カルテは医師が入力することを基本に開発が行われてきました。煩雑な診察の合間に操作するシステムですから、できるだけ簡単で素早く操作できるものが好まれてきました。しかしながら、これまで慣れ親しんだ「紙」と「ボールペン」よりも電子カルテの方が使いやすくなければ、「電子カルテを入力しながら患者と今まで通り向き合えるのか」という問題を解決できません。電子カルテの導入が医師の生産性を阻害しては元も子もないのです。

医師事務作業補助体制加算の届出状況

そこで登場したのが、医師の代わりに電子カルテの入力を医師事務作業補助者(いわゆる医療クラーク)にしてもらうという試みです。医師の負担軽減を目的に、病院では医師事務作業補助者を一定数配置すると、「医師事務作業補助体制加算」という診療報酬点数が設定されています。医師事務作業補助体制加算は2008年に新設されてから、点数の相次ぐ引上げもあり、2016年現在では2728件の病院が届出を行っています。これは全病院の3分の1に上ります。

医療クラークが担う業務として、①診断書などの文書作成補助②診療記録への代行入力③医療の質の向上に資する事務作業(診療に関するデータ整理、院内がん登録等の統計・調査、医師の教育や臨床研修のカンファレンスのための準備作業等)④行政上の業務(救急医療情報システムへの入力、感染症のサーベイランス事業等)などが定義されています。

中央社会保険医療協議会 総会(2019年5月29日)資料より作成

医療クラーク活用のポイント

医療クラークを活用する秘訣は、「教育体制」にあります。医療クラークの教育には32時間の研修が義務付けられていますが、それだけですぐに医療クラークが動き出すわけではありません。外部の研修を受講するとともに院内での研修も需要なのです。書類の作成はある程度フォーマットをしっかりと作り込み、医師の指示が明確であれば、医療クラークは業務に慣れるにつれて、しっかりと業務を行えるようになります。

しかしながら、診療記録の代行入力は一筋縄ではいけません。特に外来で医療クラークを配置する場合は、診療の時間内に入力を終えなくてはなりませんので、ある程度スキルがなければ難しいと言えるでしょう。特に中小規模の病院にとっては、外来に多くの患者が来られますので、医療クラークを活用したいところでしょう。

クラークの育成

外来でクラーク運用を始めるためには、①既存のスタッフをクラークに転換する②新規にクラークとしてスタッフを採用するという2つの方法が考えられます。これのどちらが正解というわけではありません。わたしはどちらのパターンでもトレーニングすれば可能ですとお答えしています。ただし、既存スタッフと新規スタッフではトレーニング方法が異なりますので、注意が必要です。

既存のスタッフをクラークに育成する

既存のスタッフをクラークに転換する場合は、これまで紙カルテの内容をレセコンに入力してきた経験から、処方や検査、処置などのオーダーを入力することは慣れています。そこで、「経過欄」を中心にトレーニングを行うことになります。カルテに何を書くのか、監査に強いカルテはどう作れば良いかを教えていくのです。その際に、SOAPの構造を説明することで、カルテの書き方を理解できるようになります。

新規のスタッフをクラークに育成する

新規のスタッフをクラークとして採用する場合は、採用の時から工夫が必要です。クラークは医師と患者の診察を聞きながら、見ながら、カルテに起こす作業が主たる業務になります。そのため、ある程度パソコンのスキルが高くなければ務まりません。

また、多くの情報から簡潔明瞭にまとめる力が求められますので、その部分も採用時にチェックしたいところです。チェックの際に、私が行っているのはパソコンのタイピングテストとショートスピーチです。

タイピングは、3分間に300文字打てれば充分でしょう。早く打つよりもミスタイプの少ない方を選んでいます。一方、ショートスピーチについては、「仕事上大切にしていること」「最近あった幸せな出来事」といったお題を出題し、1分間の短いスピーチを披露してもらいます。この際、短い時間で自分の意見を効率よく相手に伝えることが可能かを確認しています。

新規のスタッフは医療事務経験があるなしが重要です。経験がない場合は、保険の仕組み、診療報酬の仕組みから始める必要があります。いきなり、カルテを書かせても分かるはずがありません。一方、経験者であれば、いきなりカルテを書く方法を教えます。経過欄とオーダー欄の入力方法を説明していきます。ここで注意点ですが、既存スタッフとの大きな違いは、新規スタッフは医師の考え方や、診療の特徴、話し方の癖等が分かりませんので、一定期間は受付でトレーニングをして、職場に慣れてからクラークの研修を始めていただいています。