記載の標準化
[目次] はじめに 紙カルテより電子カルテの方が作業時間が長い理由 端末が足りない 紙を併用しているため打ち直しが発生している スタッフごとに記録スピードが違う 記録の標準化でスピードアップ 記録委員会がすること |
はじめに
電子カルテは広く捉えると、医師、看護師、コメディカルなど様々な部門のスタッフが記録するデータベースとなります。紙カルテのころは、診療録、看護記録、リハビリ記録といったように部門ごとに決められた用紙(フォーマット)に手書きで書かれた情報を、カルテファイルにまとめ、そこから情報共有を図ってきました。これが電子カルテになると、看護部門システム、リハ部門システムなど部門システムが連携し、相互に閲覧できるようにすることで部門間の情報連携が図れるようになるのです。
紙カルテより電子カルテの方が作業時間が長い理由
さて、中小規模の病院において、人数が多い部門は、看護部門とリハビリテーション部門です。他部門のスタッフに比べて、圧倒的に多いこの二つの部門をどのようにうまくデジタル化に導くかが重要になるのです。
電子カルテの導入した効果として、「紙よりも部門間の情報共有がしやすくなった」「紙よりもカルテ記載など事務作業の時間が短縮した」、この2つが達成できなければ、成功したとは言えないでしょう。前者は、比較的達成はしやすいと思います。しかし、後者は「事務作業時間が増えた」という声が多いように感じます。なぜ、紙と比べて電子カルテは事務作業時間が増えてしまうのでしょうか。
なぜ、紙カルテより電子カルテの方が事務作業が長くなってしまうのでしょうか。その理由はいくつかありますが、「端末不足」「紙の併用」「スタッフごとにスピードが違う」という3つの問題を考えてみましょう。
端末が足りない
通常、企業であれば一人一台のパソコンは当たり前の時代に、医療機関では一人一台のパソコンの割り当てがあまりされていないように感じます。そうすると、スタッフ間でパソコンを共有することになり、パソコンが空くまで記録に取り掛かるのを待たなくてはならなくなります。
なぜ、このようなことが発生するのでしょうか。まず価格構造に問題があります。電子カルテ等の医療情報システムは端末の台数ごとに価格が決定する場合が多く、端末が増えれば当然価格が上昇します。そのため、端末を減らす方向に話が進みがちなのです。人数分端末が用意できれば、パソコンの空き待ちがなくなり、スピードアップにつながります。また、クラウド時代になればソフトウェアライセンスという考え方がなくなるため、端末はあくまでハードの価格となり、人数分端末を用意することが進むと思われます。
紙を併用しているため打ち直しが発生している
せっかく電子カルテを導入しても紙を併用しているケースが見受けられます。例えば、病棟のラウンド時に、紙でバイタルや主訴を手書きでメモし、それをナース・ステーションに戻ってから、システムに入力している場合があります。これでは作業が二重になってしまい、スピードも遅くなってしまいます。いまはスマホやタブレットなどモバイル端末が普及しており、価格も安価になってきています。企業ではパソコンとともにタブレットを支給するケースも増えてきました。それに倣い、移動時にはモバイル端末で情報をその都度入力する運用にした方が、2度手間がなくなり、スピードも速くなります。
スタッフごとに記録スピードが違う
記録のスピードは、「パソコンのリテラシー」と「情報を文字に変換する能力」に影響します。前者は、パソコンが早く打てるかという問題です。これについては電子カルテ導入前にパソコン教室を開いたり、定期的にタイピングテストを行ったりすることなど、レベルアップに努めることで改善します。
一方、後者の情報を文字に変換する能力とは、もう少しわかりやすく言えば、頭の中で浮かんでいる情報を誰もが理解できる言葉に変換する能力という意味です。これをトレーニングするのは意外に難しい問題です。この解決には「記録の標準化」がカギを握ります。
記録の標準化でスピードアップ
情報を文字にする作業は、漠然と行っていては、スピードアップは図れません。経験を積みながら、先輩に教わりながら、徐々にスキルアップがされるのが一般的でしょう。一方で、病院において一定のルールがあると、情報を文字にイメージがしやすくなり、急激にスピードアップが図れるのです。「実際に目にした、耳にした事象」と「記載」を一致させる作業には一定のルールが必要なのです。
看護記録やリハビリ記録は通常、学校や以前の職場で習った内容がそのまま個人のスキルとなっています。そのため、記録ルールは大抵、個人任せになっていることが多いように感じます。一方で、記録委員会などを設置して、記録の標準化に取り組んでいる病院も存在します。規模が大きくなるにつれて、記録委員会が設置されているように感じます。
現在、記録委員会がもしなければ、ぜひ電子カルテの導入に合わせて、設置することをお勧めします。この記録委員会がうまく作用すると、電子カルテ導入後に大きく差が生まれます。
記録委員会がすること
具体的には、①記録フォーマット②項目ごとの記載ルール③よく使用する用語の整理、の3点を決めることです。SOAP形式を例に挙げれば、S(Subjective Data)に何を書くのか、O(Objective Data)に何を書くのか、A(Assessment)に何を書くのか、P(Plan)に何を書くのかについて、委員会内で意見を出し合い、ルールと用語を決定するのです。この決定したルールと用語をシステムベンダーに渡せば、それに合わせてセッティングを行っていただけます。