在宅

電子カルテと在宅医療システム

                                 [目次]
はじめに
在宅医療における電子カルテの利用
多職種間の情報共有が最重要
多職種間連携システムの普及・浸透の難しさ

はじめに

高齢化率の上昇並びに核家族化の伸展、それに伴う独居世帯の増加などにより、通院できない患者も増えてきました。そのため、政府は在宅医療の拡大を目指し、様々な施策を行っています。

在宅医療は、入院医療と外来医療に次ぐカテゴリーとして位置づけられています。在宅医療が初めて診療報酬で定義されたのは、1986年で「在宅医療の推進」という考え方が盛り込まれました。また、2000年には介護保険制度が始まり、医療と介護という分かれたフィールドを橋渡しする役割が強まります。また、2006年には「在宅療養支援診療所」が設けられ、その後病院(在宅療養支援病院)にも拡大し、在宅医療を専門に行うための環境整備が進められました。そして、2018年には在宅医療の裾野を拡大するために、在宅療養支援診療所ではない通常の診療所が在宅を行った場合の評価が引き上げられました。政府は現状の在宅医療の提供体制は今後の高齢化の伸展を考えると不十分であると考え、さらなる拡大を期待していることが分かります。

在宅医療における電子カルテの利用

在宅医療では、患者は自宅や介護施設で療養されている方をサポートすることになり、入院医療で提供している定期的な診察や検査、看護、リハビリテーションなどを出張して行うことになります。そのため、在宅の現場でカルテを書いたり、オーダーを出したりする場合、電子カルテを病院から持ち出す必要があります。

その場合、いくつかの対応方法が考えられます。①在宅のみ「紙」でカルテを書き、病院に戻ってから電子カルテに入力する、②訪問する患者のカルテを抜き出し、パソコンに入れて現場で入力する、③リモートで電子カルテサーバに入り、電子カルテの操作を行う、という方法が考えられます。

2010年に医療分野でクラウド技術の利用が解禁されてからは、クラウド型の電子カルテも出てきました。クラウド型の電子カルテであれば、インターネットにつながる環境さえあればどこでも電子カルテの利用が可能ですので、気軽に在宅の現場で電子カルテの使用が可能になります。

また、入力端末についても在宅医療では注意が必要です。カルテの記載場所は患者宅、介護施設、そして車の中となりますが、病院の診察室やナースステーションのように、しっかりと机が用意されているとは限りません。そこで、持ち運びしやすい「タブレットPC」の利用をお勧めします。さらに、音声入力システムを活用すれば、車で移動中にカルテを書くことも可能となります。現在は、医療に特化した辞書を持つ音声入力システムも存在します。

多職種間の情報共有が最重要

在宅で患者をサポートするためには、医師、看護師、薬剤師、リハビリ、ヘルパー、ケアマネージャーなど、様々な職種が関わるようになり、多職種間の連携が大切になります。また、これらの多職種は所属する組織が異なる場合が多く、毎回、患者さん毎に様々な組み合わせで行うことになります。患者さんの状態を常に把握していくためには、多職種間の情報共有(申し送りや緊急時の対応)が最も重要となることは言うまでもありません。

現在はこの多職種間の情報共有は、電話やFAX、メール、多職種間連携システムなど様々な仕組みを利用して行っています。先に患者さん毎に組合せが変わると申しましたが、情報共有の仕組みも組合せごとに変わります。関係者は様々な仕組みを常に見て(聞いて)対応しなければならないのです。これはとても大変なことです。できればすべてが同じ仕組みで情報共有が図れれば、だいぶ負担は軽減されます。そこで、地域ごとに多職種間連携システムを共同利用する試みが進んでいるのです。しかしながら、このシステムに全関係者が入ってくれればよいのですが、様々な理由で全員参加とならないことが現状です。

多職種間連携システムの普及・浸透の難しさ

なぜ、多職種間連携システムの関係者の全員参加は難しいのでしょうか。わたしは大きく、分けてお金(システムコスト)の問題とスキル(ICTリテラシー)の問題があると考えます。多職種間連携システムは無料ではありません。システム構築に費用がかかり、日々の運営にもお金がかかります。また、アクセスするためには端末も用意しなくてはなりません。全員が使用するためには、定期的に説明会や勉強会を開く必要もあります。これらにかかる費用を誰かが負担し続ける必要があるのです。

一方で、お金以上に問題なのは、システム化は使用する方々のITスキルに依存するという問題です。情報共有をパソコンやタブレット、スマホで行うためには、それらを使いこなすための教育が必要になるのです。パソコンに苦手意識のある方は、情報を入力することに抵抗を感じますし、定期的に情報にアクセスすることもしないでしょう。それを解消するためには、パソコン研修のようなリテラシーを向上させる研修を定期的に実施し、底上げを図るか、システムを誰でも使えるように改良するしかありません。